2011年10月2日日曜日

綿の木



カタログ『種子のデザイン』に、カポックの実が載っていました。

熱帯の広葉樹のほとんどは、葉をつけたまま、新しい葉と交代していくので、落葉が顕著ではありません。
乾季と雨季のはっきりしているところには落葉樹もありますが、固体別に落葉する場合が多く、落葉時間も短く、温帯のように、いっせいに葉を落としてその状態が長く続くということはありません。

そんななかで、カポック(キワタノキ)は、実をつけたときに葉を落とすので目立ちます。
高さもありますが、まっすぐに伸びた主幹から、水平に近い形の長い枝を四方に伸ばし、それにたくさんの緑の実をぶらさげ、やがて実は茶色くなって、はじけて落ちたり、落ちてはじけたりします。

もちろん何度も実を拾ったことがあります。
すでに枯れて果皮が茶色になった実も、緑色のままの実も、拾ってからも果皮の収縮が進みます。硬く閉じている実でも、ある日突然はじけて、そこいらじゅうが綿だらけになります。
果皮も無残にねじれてしまうので、始末に困り、泣く泣く捨ててしまったことの連続で、そのうち拾わなくなってしまいました。




このカタログに載っている実は、どうしてこの状態を保っているのでしょう?
ボンドなどで固めているのでしょうか?

カポックは、綿より繊維が短く、ほとんどの場合、クッションなどの詰め物として使われます。タイでも、布団や枕をつくるときの必需品だったので、庭などに植えられていました。




ネットで調べてみると、南アジア原産のキワタノキBombax malabaricum と、熱帯アメリカ原産のシロキワタCeiba pentandraが、あちらこちらで混同されています。
紡錘形の実はよく似ていますが、木姿が違いますので、木を見ると違いがわかります。

このカタログには、実は長さ30センチほどとありますが、本によっては、Ceiba pentandraの実は、長さが10-18センチと記してあるものもあります。
もっとも、栽培種と原種に近いものでは実の大きさが違います。

綿の木には、実が西洋梨型をしたブラジル原産の、Ckorisia speciosaもあります。こちらもはじけて、綿だらけになり、実の形を保ったままで保存することはできませんでした。

タイ人三人を連れて、サラワクに行ったことがありました。
州都クチンに泊まったとき、博物館の横に私の好きな巨木があるのを思い出し、
「私の木があるから見に行こう」
と彼らを誘いました。
あちこちに気に入った大きな木があると、私は勝手に「私の木」と命名して、再訪したときに見るのを楽しみにしています。

その木は、四方八方に高い板根をくねらせ、その板根が直径10メートル以上にもなっていて、低い根はもっと外まで走っている、高くそびえている巨木でした。連れて行った三人もしばし見とれていましたが、
「これは、原種のキワタノキだなあ」
ということで、意見の一致をみました。
栽培種とは似ても似つかぬ木姿なので、私なら、何度見てもキワタノキの原種とは気がつかなかったことでしょう。

一緒に仕事をしていたタイ人たちはみんな植物に関する私の先生でした。
彼らは、初めて訪れたサラワク(熱帯多雨林)でさえ、食べられる木、薬になる木、毒の木など、ここで暮らしてきたかのように知っていました。

同じ熱帯の植物だけでなく、温帯でもその力が発揮されました。
別のタイ人と日本でお弁当を食べようとしたとき、そこいらに生えていたイヌビユなどを採ってきて、たれをつけて食べたのです。
「食べられるの?」
と、私は思わず愚問を発してしまいましたが、毎日いろいろな草を採ってきて、箸休めとしてして食べている彼らが、草の選択を間違う心配はありませんでした。

自然の中で暮らす人の、力強さを知る日々を懐かしく思い出します。


2 件のコメント:

Tomoki さんのコメント...

カポックの実、そんなにすぐにはじけますか?
私の持っている茶色で完全な状態で落ちていたものは、すべていつまでたっても破裂せずに残っていますけど。春さん、乾燥させすぎ?

Bombax malabaricumって何かと思えば、Bombax ceibaの別名なんですね。赤い花が目立ちますよね。タイでは雄しべを乾燥させたものをスープのとろみ付けにも使います。この実は表面が黒く、簡単に5つに裂けるので、完全な姿で探すのが難しいですね。

それから、タイ東北部にはもう一つBombax ancepsという白い花を咲かせるキワタが自生しています。なので、Ceiba pentandraをシロバナキワタノキと呼ぶとややこしくなります。この実は、表面にビロード状の毛が生えていて、やはり5裂しやすく、完全な姿を探すのが難しいです。

でも、何でタイにはトックリキワタ(Ckorisia speciosa)は導入されなかったんでしょうね。カポックが先に導入されたので、十分だったんでしょうかね。


実の特徴から区別すると、薄茶色で15-30cmの長いものが、Ceiba pentandra、黒くて10cm前後の短いものが、Bombax ceiba、灰茶色でビロード状の毛が表面に生えていて、長さ10cm前後の短いものがBombax ancepsです。
私もすべての花と実の実物を見るまで混同していました。

また、昨年、クチンでトランジットの待ち時間の間に、クチン市内で春さんの「私の木」に会いましたよ。広々とした芝生の広葉にドーンと腰を下ろしていました。なかなかの貫禄でした。

さんのコメント...

Tomokiさん
えっ、とって置けましたか?
ラッキーでしたね。私は、全部で30個ぐらい拾ったでしょうか。そのつど、すべてはじけさせてしまいました。
しかも、どれも薄茶色で20センチ以上あるものでしたから、また頭の中がこんがらがりました。

伝統的には東北部ではマットでなくござで寝ているので、カポックがなくてすみますが、北部では幅の狭いマットを家庭でつくるので、必需品でした。村で大木になっているカポックは、てっきりアジア原産のBombax ceibaだとばかり思っていました。実が短いといっても太いのでしょうけれど、あまり見たことがありません。

トックリキワタは、どこかで街路樹のように植えているのを見ました。もしかしたら、カンボジアだったかもしれません。タイの遺跡だったかもしれません。

そうですか、クチンで「私の木」を見ましたか。熱帯林の中のドリアンやフタバガキもすばらしいのですが、下から見上げるだけでなく、遠くから眺められるところに立っている木は、また格別ですね。
バンヤンも、「私の木」になりやすい木です♪